2018年8月11日土曜日

TEDxでスピーチをするまでの5ヶ月と、あとに残ったもの

2016年の9月にTEDxHamamatsuでスピーチをしました。この体験が結構面白くて、あとに残ったものと気付きが印象的だったので、書いておくことにしました。これからTEDxでスピーカーをする方にも参考になれば幸いです。

  1. TEDとTEDx
  2. スピーチを作った4ヶ月が大変
  3. 本番の裏側、追い込まれる2日間
  4. 終了後に残ったもの、2年経って思うこと


1:TEDとTEDx

*ご存知の方は読み飛ばしてください。*
TEDとTEDxは違うものです。私がスピーチをしたのは、TEDxです。

TEDとは?
TEDは「価値あるアイデアを共有しよう」というコンセプトのカンファレンス。要はみんなで面白いスピーチを聞いて、それから考えたり行動を起こしてみよう、という次のきっかけを作る場です。

スピーチは、すごく硬い話からライフハックみたいなものまで幅広い。

こんなスピーチもあります。これは私が大好きなTEDトークの一つ、紙タオルの正しい使い方についてのスピーチ、約5分。アメリカ国内だけでも年間590万トンの紙タオルが消費されていて、紙タオルを一人一日一枚削減するだけで年間約26万トンの削減になる。だから手を洗ったら水を切ってからペーパータオルを使おうね!という現実的方法をみんなで実戦してみるチャーミングなスピーチです。

赤い丸い絨毯の上で、TEDの赤いロゴの近くで、スピーチをするのです。

ウィキペディアでは、こんな感じ。
TED(テド、Technology Entertainment Design)は、アメリカ合衆国ニューヨーク市に本部があるLLCカナダバンクーバー(過去には米カリフォルニア州ロングビーチモントレー)で、毎年大規模な世界的講演会「TED Conference」(テド・カンファレンス)を開催(主催)している非営利団体である。

TEDはこんな感じです。
※これはかなり大雑把に説明をしているので悪しからず。

TEDとTEDxの違い
本家のTEDからライセンスを受けて、イベントのコンセプトを受け継ぎ、各地で自主的に行われる独立したイベント。つまり、ちゃんと申請して、ものすごく厳しいルールを守りながら、TEDを各地で独自に行えるのがTEDx。各TEDxは独立した運営であり、TED本体は運営にかかわらない。小さい”x”の後に実施場所がくっつきます。私が参加したのは、浜松市で行われるTEDxのTEDxHamamatsu(てでっくすはままつ)です。

TEDxHamamatsuはこちら
https://tedxhamamatsu.com/

2:スピーチを作った4ヶ月が大変

当時のカレンダーを確認しながら、4ヶ月間の思い出を語ります。

4月25日
初回MTG。何のことかわからない私のところに、TEDxHamamatsuのオーガナイザー(リーダー)の河口さんと、スピーカーチームの森さん、鈴木さん、という3人がやってきて、TEDxにでないか佐藤さん、というネゴが行われました。面白そうだし、いいかなって思ってオッケーしたのがここからの地獄の4ヶ月の始まり。

5月、6月
TEDxスピーチの原稿は大体1400文字くらい。15分間ほどのスピーチを書くのですが、どう書いたらいいのか全くわからない。とにかく書く、スピーカーチームに投げる、返ってくる、書き直して投げる、返ってくる、永遠ループ。めっちゃ丁寧に添削されてかえってくる。そもそもこのスピーチの流れで人に伝わるのか、コアコンピタンス(圧倒的な話の核の部分)は同じなのに、TEDスタイルで伝えようと思うと難しい。夜中に書いて明け方送ると、翌日夜中に返ってくる、という体育会系のラリーの毎日。だんだん何をしているのかわからなくなってきて、修行僧ってこういう気分なのかな、とおかしなテンションで近所のコンビニに行き、明け方の空を眺めながらヘラヘラ笑っていたことも懐かしい思い出。このときラリーに付き合ってくれた鈴木さんのことをこの頃から「鬼軍曹スズキ」と私は呼ぶようになりました。鬼軍曹スズキ、いまでも呼び名は軍曹(ぐんそー)のままです。

中国出張の飛行機内でも、移動の電車でも、仕事をしていても、スピーチを印刷した裏紙をもって赤ペンをいれたり、いやいやもうこんな原稿捨てて位置から書きなおしだよ!軍曹ごめんよ、と思ってゼロから勝手に書いちゃったりしました。

6月30日
原稿の一回目の締切日。締切は本来ないのかもしれませんが、私はゴールが無いと頑張れないので締切があった様子。もう辛すぎて覚えていない。原稿は一旦終了、それに合わせてスライドづくりスタート。

7月30日
1回目の練習スピーチ。TEDxHamamatsuの運営ミーティングの場を借りて、まずはスタッフチームの皆さんにスピーチを披露。まだ練習不足でつたないスピーチなのに皆さん温かく聞いてくれて、ああ人はこうやって育つのかと実感した1回目。

しかし、このあと結局、原稿をまるっとゼロから書き直して作り直しをすることになる。勝手にやって、軍曹が焦る、たぶん焦っていたと思う。全くコントロールの効かないスピーカーを担当した軍曹、たぶん焦っているのに揺らがない大人だった。

8月26日
2回目の練習スピーチ。前回と同じく運営メンバーの前でスピーチ。この頃から、そろそろ原稿を丸暗記のプレッシャーをかけられる。TEDスピーチでは、原稿はおろか、カンペも許されない。時間も厳守。大筋決めてフリースピーチなんてもってのほか。完全に作り込まれた15分間を作る作業が始まる。

9月
スピーチを直す、スライド作る、スピーチ直す、スライド作る、を繰り返す。仕事の合間、移動時間と空き時間がすべてTEDxになる。TEDって赤だよね、ということで、何着ようかなと悩む。スピーチを覚えて、15分間1クールでとにかく喋る。一人で部屋でニコニコして15分のスピーチを喋り続ける。スピーカーチームが真剣すぎてサボるなんて恐ろしくてできない。だんだんことの重大さがわかってきた。これは、結構大変なやつだぞ、とこの頃やっと気づく。他のチームの進捗が気になるが、あまり伝わってこなくて余計焦る。


3:本番の裏側、追い込まれる2日間


9月24日

本番前日。朝から会場の静岡文化芸術大学に軟禁されて通しリハーサル2回。もうスライドの差し替えはNG。仕事のプレゼンのように、いやー、こちらのスライドに差し替えて下さい、って当日言うのはNG。運営の人はスライドが当日ちゃんと回るか、などなど、想像以上にシビア。この時点では、中の写真をSNSなどに公開するのはNG. スピーカー同士、控室で若干青ざめた顔でもう逃げたいという話をする。スピーカーが控室、廊下、階段、通路、とあちこち移動しながらスピーチをぶつぶつ言い続ける。スピーカー仲間のステラちゃんと、TEDxカラーの赤を着ようと話す。夜はウエルカムパーティ。



楽屋でパラリンピックメダリスト佐藤圭太くんのメダルを見せてもらう。首から掛けてみるとずっしり重くて、振るとカラカラ音がする。なんだかんだと1日一緒にいると打ち解けて楽しい楽屋。



ジャパニメーションフォトの杉山くん、カメラの使い方をレクチャー。本番前に笑いをとってくれるムードメーカーもいて、いいチームだった。


9月25日

本番当日。午前中に通しリハーサル。
マイク着けて、フリッカー持って、とにかく話し切る。



舞台から。赤い絨毯の上でスピーチします。



昼過ぎ、開場。誘導看板をもったスタッフチームメンバーが誘導してくれます。



お客さまが入って、あっという間にスタート。ここからは舞台裏から見学。自分の前のスピーチは正直聞いている場合じゃないのに聞いちゃう 。面白い。本番が始まってしまえば、あとはやるだけ。スピーカーチームの軍曹スズキ氏の紹介コメントの後、15分間のスピーチ。軍曹がめっちゃ緊張して噛みまくる。



なんだかんだと無事終了。スピーカー6人で記念撮影。やりきった達成感と安心感しかない。

4:終了後に残ったもの、2年経って思うこと

TEDxは実質半日のイベント。約5ヶ月の大人の真剣な遊び。
しかし、運営チームはその前後も大変なのです。

スピーチのを動画でアップするため、編集して、字幕をつけて、英語訳もつけて、多くの人の手を経て公開されます。運営には大きなテーマパークやカンファレンスを運営している人や機材が入っていて、とても高いレベルで処理されています。

それを支える運営チームは、毎週ミーティングして進捗を共有し、チームごと役割分担して準備を進めています。本番前日・当日の2日間、たくさんの運営ボランティアの人たちが会場の安全を保ち、滞りなく進行させていました。


みんなで記念撮影。この3倍くらいの人が関わっていたと思う。

この人達に支えられながらスピーカーを体験して、私の中に残ったものは3つ。

1つは、地方でも面白いことができる。やってみた事実と自信。楽しいことを作ろうと思ったら、本気でやればこんなに面白いことができる。イベントや事業のフレーム(型)はもうあちこちに存在しているのだから、後は、誰かがやりはじめたら、それに真剣にのっかって、真剣にクオリティだしてやる。そうしたら、こんなに面白いことができる。

2つ目は、やったらできるという自分自身の成功体験。おとなになると、正解のないことを信じてやり続けることが沢山あります。特に、私の仕事は今はないけどあったらこんなに患者さんは生きやすくなるよ、という見えないものを見せて実現させていく仕事。だから、ときどき、本当にこれでいいのかとても不安です。解のレパートリーはいくつもありますが、どれが正解かわからない。でも、決めて、それの実現を目指す。遠いゴールを目指す仕事に、自分がやりきった体験は力をくれます。達成感や成功体験はおとなになると得にくいものです。それを得た貴重な5ヶ月。

3つ目は、スポンサーのあり方。TEDxはスポンサーと入場料で運営されます。お金を出してくれる企業団体さんとの関係性は、もう少し変えられるんじゃないか、と。イベントをする人、スポンサーはゲスト、という関係性から、ともに作り手に参加する権利として売れるくらいになったら、TEDxはもっともっと面白い場になるはず。普段のしごとでは体験のできないことが沢山あります。ポストや名刺は何の役にも立たないし、考えて動いて、失敗したらやり直せばいい、というアタリマエのことも、仕事ではなかなかできない。それができるのは、こうした仕事じゃない場所ならでは。最後までやりきって、結果オーライになるように全員最大限努力する、追い込まれ感ハンパない体験でアドレナリンを出す体験。

最後に、2年経って思うことは、ああしんどかった!です。それでもやりきれたのはスピーカーチームの真剣さのおかげです。真剣さには真剣さで返すしか無いでしょ、というくらい真剣。あと、TEDxHamamatsuメンバーがTEDxの場を愛していて、これを壊す訳にはいかないです。私たちスピーカーは前に立ってスピーチをさせてもらい、目立ちます。目立つ人の後ろにはたくさんのスタッフがいまして、その方たちが真剣に支えてくれています。スピーカーは、全員の思いをお客さまに届ける役割もあります。

先日、私のスピーチに英訳が付いて、これでTEDxHamamtsuの一連の作業が終了しました。スピーチをするぞ、と決めてから本番まで5ヶ月。その後、動画のアップや字幕、英語訳をつけて、ココまで2年。良い仕事は、たくさんの外から見えない仕事に支えられているということをそのまんま体現しているTEDxHamamatsuの皆さん、いい体験をありがとうございました。



TED風にかっこいい写真を撮ろう、の1枚。
左がおに軍曹スズキ氏。普段は公務員です。


Shall we make something that make people happy? | Makoto Sato | TEDxHamamatsu

How can I help the patients who have a hard time to live because of their illness, using some products? How can I realize a society that those patients can live positively in? Ms. Sato supports those patients with her mission strenuously. How did she feel when her products make the patients positive? She talks her ideal for us how making products solve the problems in our society. She met a leukemia patient during practical training of nursing school where she had entered after working. And she knew the necessity of wigs for the patients and community care. She visited China when she was a student and established a company “PEER” with only 50,000 yen. Its business aim is to support patients, family, and medical staff by making products such as reasonable human-hair wigs made by its reservation only hair salon. She studied how to commercialize user’s opinion at Shizuoka University, Management of business development. Ms. Sato was born in Hamamatsu city in 1977. Nurse / Representative director of PEER Co., Ltd. This talk was given at a TEDx event using the TED conference format but independently organized by a local community. Learn more at http://ted.com/tedx