2015年11月1日日曜日

がんになったことが悪いことのように語られるのは心外。病気は罪の罰ではな い はず。

10月はピンクリボン月間でした。ピンクリボンは、乳がんについて考える啓蒙運動のシンボル。世界中で乳がんについて考えるイベントが行われます。

日本でも、タワーや建物をピンク色にライトアップしたり、各種セミナーやイベントが行われます。ここ数年は、ピンクリボンタイアップ商品が販売されたり、身近なものになってきているように感じます。

そこでもう一回、そもそもを確認。
なんのためにPRしているのか。

私が思うところ、以下3点の目的があります。
・検診や治療について、現在の乳がん診療について広く正しい情報を広めること
・乳がんについての研究をすすめること
・乳がん患者さんについて社会が正しく理解すること

乳がんになったら怖い、困る。だから検診にいこう、と闇雲にターゲット層以外も煽るのはもうやめましょう。医療も検診も、完全ではありません。

乳がん検診を受けていても、急激に大きくなるがんは、たしかにあります。
不安です。わかります。私も不安です。

でも、そんなに大切なことだからこそ、きちんと「なぜ」を考えてみませんか。

日本ではマンモグラフィによる乳がん検診を40歳からと定めています。これには根拠(エビデンス)があります。多くの患者さんのデータを研究してきて、40歳未満での検診受診にはメリットがなく、無駄に検査で放射線を浴びるだけだとわかっているからです。

もちろん40歳未満でも、乳がんは発生します。
でも、それを若いうちからマンモグラフィ検査をうけるハーム(不利益)の方が大きいのです。

40歳未満の人には、自己触診で触ってチェックすることが推奨されています。
マンモグラフィ検査を受けても、若くて母乳を作る乳腺が濃いので、がんが見つかりにくいのです。乳腺が痩せて少なくなってくる、かつ、乳がんの発症が多くなる40歳からと決められているのには、理由(エビデンス)があるのです。

ただ、これについては現在少し違う見解も有り、検診で発見しても、自分でしこりに気づくなどの症状がでてきてから治療を開始しても、生きている時間の長さと質はあまりかわらない、という発表も有ります。検診も日々情報アップデートされています。

患者さんの中には、定期的な乳がん検診や自己触診をしていても、乳がんが大きくなってから発見される方もいます。そのときに、乳がん検診を受けていたのに、と本人が落胆したり怒りを感じるのは、避けられない正直な気持ちです。そのぶつける先もなくて、思うことを口に出したり書き込んだり、医療者にぶつけるのは、仕方ないと思います。本当に気持ちのやりどころがないこともあります。

実際のところ、がん検診は完全ではないし、私たちの身体は日々がんを作り続けています。がんになることは、さけられないことなのです。
でも、その時に、がんになるような生活をしていたとか、身体を温めていればよかったのに、など、がんになった人が悪いと受け取れる情報が流れていますが、そんなことはありません。

たとえば、がんになりやすい生活というのは、沢山の人達の生活データを長い間蓄積して、それを分析して、こういう生活をしていた人たちにがんの発生率が高い、と統計上だしたものです。たしかに傾向ではありますが、それだけではないのです。もっと大きなことなのです。

どうぞ、これを機にがんと生きることについて考えてみてください。
がんになったら、この世の終わりで、もうあとは治療と生きて自由なし、なんていうことはありません。人は年齢とともに病気になりやすくなります。それががんなのか、内蔵なのか、足腰なのか、それはわかりません。みんな同じです。

がんになった人は、何かの罪を犯し、その罰でがんになったわけではありません。
衝撃的な話題として語るマスコミや、SNSでキャッチーな意見を書く方、根拠の少ない代替療法について語る方、みなさんは、その意見をなんの目的で書いているのですか。私にはわかりません。

これからの患者さんと、医療を取り巻く環境をもっと良くしようと思いませんか。
少し俯瞰して、その意見はなんのためか、自分の影響力を考えてみてください。

毎年10月が少し憂鬱です。
有名人が乳がんになってその特集が組まれる度に、また目的意識の薄いPRが始まったと憂鬱になります。振り回されるのは、患者さん、医療者、周りの人、この騒動はどんどん加速している用に感じます。

ここらへんで一回、そもそもなんだったっけ?と考えてみる時期だと思います。

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以下補足
乳がんについての一般情報は、こちらをご覧ください。

遺伝性乳がんについては、検診年齢が別途定められています。
遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)について

乳がんは、女性に多いがんです。乳腺という、母乳を作る腺(せん)に発生します。
病気についての詳しいことは、国立がん研究センターのこちらをご覧ください。
乳がんについて

女性だけ?と思われがちですが、男性にも乳がんは発生します。
乳がん患者全体の1%未満ですが、発生しています。